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執筆者の写真長谷川 将士

ウガンダのディープジャーニー、知られざる『ボダ・ボダ』コミュニティの世界


たとえ何年海外に赴任していたとしても、身近なコミュニティとばかり触れ合うならば、現地の庶民レベルの実態を理解することはなかなか難しいでしょう。


たとえば大手企業や公的機関の日本人駐在員は多くの場合、アフリカの都市部で厳格な行動制限を課され、外国人が十分に安全確保ができる範囲でのみ活動が許されています。


このような場合、たとえばローカルマーケットや庶民の住宅街、あるいはスラムといった部分を見て回ることは基本的にはできません。


そんな中、現地住民と肩を並べ、同じモノを食べ、共に過ごし、入念に対象を理解しようとするのが文化人類学者です。彼らは長期にわたりコミュニティに溶け込み、時には民族儀礼や結婚を通じて同化することさえあります。


本記事では5年間におよぶ参与観察からなる、京都大学大学院の大谷琢磨氏の論文をご紹介します。


ボダ・ボダ=ボーダー!ボーダー!


そもそも、ボダ・ボダについてご存じない方も多いでしょう。ボダ・ボダとは、ウガンダをはじめ東アフリカで広く普及しているバイクタクシーの呼び名のことです。


バイクタクシーとはバイクに乗った運転手がお客さんを乗せ、二人乗り(時には三人、四人)で目的地まで送り届けるサービスです。


都市部で一番安い『庶民の足』は乗り合いバスですが、ボダ・ボダは他のお客さんを待つことなく、渋滞を回避したりして、目的地に素早く移動できます。


そのため、多少割高であっても人気があり、現地のウーバーや有名スタートアップがこぞってボダ・ボダのマッチングサービスを展開しています。


大谷氏の論文によれば、ボダ・ボダの始まりはウガンダとケニアの国境の街の自転車タクシーから始まったといわれています。


1960年代に両国の出入国管理所の間が800メートルほどありますが、人や荷物を運搬する自転車タクシーが国境を歩いて渡ろうとする人へ「ボーダー、ボーダー(border border)!」と呼びかけたことが変化してボダ・ボダとなったそうです。


意訳すれば、「ここは国境だから乗ってけよ!」という客引きの声ですね。


その後、1990年代からバイクタクシーが普及したことで、現在使われているボダ・ボダ=バイクタクシーの意味に落ち着きました。首都のカンパラでは、14万人以上のボダ・ボダの運転手がいるといわれています。


知られざるボダ・ボダコミュニティの中身


インフォーマルセクター、あるいは自営業の代表格ともいえるボダ・ボダですが、大谷氏の論文ではコミュニティが組織化されている実態について詳しく説明があります。


先ず、ドライバーたちが客待ちをしている場所をステージと呼びます。このステージを軸に、ドライバーは独自に委員会を形成します。この委員会には委員長や書記,会計,警備,風紀などの役職があります。


委員会に参加すると委員長に登録料を支払う必要があったり、委員会の指示や規則に従う必要がある一方、メンバーが団結して警察による不当な取り締まりや賄賂の要求からお互いを守ることもあります。


さらに、ドライバーはバイクをステージに停車しながら乗客が来るのを待つことができるため、燃料費を削減したり、人通りの多いステージで客待ちをすることで乗客を得やすくなるという利点があります。


大谷氏は「運転手にとってステージは営業の拠点としてなくてはならない場所である」と、その重要性を指摘しています。


身ぎれいな運転手たち


大谷氏が現地調査を行った舞台となったのは、ウガンダの首都カンパラから約130 キロメートル南西に位置するマサカ市カトゥエブテゴ地区にあるXステージです。


Xステージが面白い点は、委員会に所属する運転手が常に身ぎれいにするよう心掛けていることです。


このステージの位置が市街地にあり、道を歩く人びとが清潔できれいな服を身につけているため,運転手たちも身だしなみやバイクの汚れには気をつけ,清潔に保っているようです。


さらには運転手たちは客待ちをしながら、ステージ周辺のようすに気を配っていることで犯罪を抑止し、犯罪者の逮捕の協力することもあります。お客待ちの運転手が周囲を確認することが主な目的ですが、同時に地域コミュニティの一員として治安維持に貢献しています。


そんなXステージですが、5つの規則があり、これに違反すると注意や制裁を受けます。


一例では委員会で警備委員を任されているD氏が、ステージ内でタバコと大麻を吸っている運転手を目撃しました。D氏は運転手を後ろ手で拘束し、警察に連れて行くと言及し、警告しました。


D氏は「タバコも大麻も違法だ。みんなが嫌がる。ステージにムヤーエ(muyaaye,ガンダ語でならず者という意味)がいると思われるかもしれない」と大谷氏に説明しました。


また、他の運転手のバイクが鎖に繋がれたことがあります。これは、ステージの壁に掛けていたジャケットが汚かったため、あるメンバーが街の洗濯屋に持ち込んだところ、無断で洗濯された運転手が怒り、胸ぐらを掴んだためでした。


その場にいた18人の委員会メンバーが協議をした結果、この運転手に妥当な制裁として、バイクを鎖でつなぐことが決定しました。


こうすれば制裁を受けていることが分かりやすく伝えられ、物理的にバイクを使えず、お金も稼げなくなるということですね。


大谷氏の研究の面白さ


この論文の面白さは、なんといっても大谷氏による入念な現地調査から得られた、解像度の高い説明でしょう。


読み手によっては、まるでノンフィクション冒険小説を読んでいるかのような臨場感と興奮を覚えるはずです。


また、研究としてもボダ・ボダや地理的背景に関して丁寧に詳細が伝えられており、内容が非常に分かりやすいことが特徴です。


中身が面白いため、背景知識がなくとも読める論文でしょう。ぜひ多くの方に読んでほしい論文です。


参照元出所:大谷琢磨、2023年、「ウガンダ都市部におけるバイクタクシー運転手の自主組織による集団規範の形成と顧客の獲得実践」『アジア・アフリカ地域研究』、23(1):1-25




(イメージ画像はUnsplashより。© Tron Le

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