ナイジェリアやインドでミニグリッド(分散型電源の地域電力網)事業を行うハスクパワーシステムズ(Husk Power Systems)が24日、1億300万ドル(約155億円)の資金を調達したと発表しました。
この調達には4300万ドル(約65億円)の株式と、6000万ドル(約90億円)の借り入れが含まれ、出資元はストアインフラ&エナジー社(STOA Infra & Energy)、米国国際開発金融公社(DFC)、プロパルコ(Proparco)、国際金融公社(IFC)や欧州投資銀行(EIB)等です。
このディールはミニグリッド分野で巨額の資金調達であり、ハスク社によれば同分野で過去最大であるとしています。
また、同社はビジネス業界だけではなく、ハーバードビジネススクールのジョセフ・ラスィター教授が論文として取り上げるなど、分野を超えて大きな注目を集めています。
しかし、なぜこれほどまで同社は注目されているのでしょうか?本記事ではハスク社の背景に触れつつ、ケーススタディとしてご紹介します。
農村で100%再生可能エネルギーの電力網を提供
ハスク社は2008年、インドでコメのもみ殻を用いたバイオマス発電事業を開始しました。社名であるハスク(もみ殻)はこのバイオマス事業が由来でしょう。
2010年代の中ごろ、ソーラー発電システムの価格低下をきっかけに、バイオマス発電とソーラー発電を組み合わせたハイブリッド電力網を展開するようになりました。
これにより、同社の強みでもある農村部で100%再生可能エネルギーを使用した電力網を提供する体制が構築されました。
同社が提供する電力網は使ったら使った分だけ(pay-as-you-go)の料金支払いモデルで提供されています。そのため、高額な初期費用を支払う必要はなく、24時間365日使用が可能です。
発電事業から多角化を実現
ハスク社の特徴の一つに、発電事業に留まらず、モバイルや小売り、融資といった事業に多角化を実現したことが挙げられます。
たとえば同社は顧客向けの携帯アプリを提供しているため、ユーザーはデジタル決済を利用できるだけではなく、エネルギー使用量をモニターし、無駄なエネルギー消費を削減することができます。
さらに、Eコマース事業も展開しており、携帯アプリから各種商品を72時間以内に提供できます。
これらの事業を足掛かりにして、エネルギー効率の高い家電製品の販売と融資、商業および産業用屋上太陽光発電、e-モビリティ、農産物加工、低温貯蔵等の分野まで手掛けるようになりました。
現在、同社は単なる発電事業会社ではなく、低炭素で気候変動に強いエネルギーサービスを提供する統合プラットフォームへと成長しています。
更なる規模拡大へ、世銀も推奨
現在、ハスク社はインドに188基、ナイジェリアに12基の電力網を提供しています。今回の新調達を受けて、CEOのマノージ・シンハ氏は今後5年間でナイジェリアに500基の新規電力網を供給する予定です。
また、数年以内にはコンゴ民主共和国(DRC)、ザンビア、マダガスカルで事業を開始するとしています。
サブサハラフリカは、再生可能エネルギーや電力を利用できない人口が世界の75%を占めています。世界銀行によると、ミニグリッドは適切な政策が実施されれば、アフリカで2030年までに3.8億人にクリーンエネルギーを提供できる可能性があると指摘しています。
政府だけでミニグリッドの普及は資金面でもノウハウ面でも実現は困難であるため、ハスク社のような民間企業の活躍が期待されています。
グローバルレベルで気候変動の対策が迫られている昨今、同社はこれまで提供してきた電力網により、1万以上の零細・中小企業(MSME)にサービスを提供し、2万5000トンの二酸化炭素を削減してきたとしています。
ハスク社は2022年第4四半期に、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)で黒字化を達成したと発表しました。
再生可能エネルギー発電や気候変動対策の需要が高まる中、インドやナイジェリアで特徴的な挑戦を続け、財政面でも健全性をアピールする同社には、今後さらなる注目が集まるでしょう。
(画像はハスク社のX投稿より。©Husk Power)
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