10月7日にイスラエルがハマスとの戦闘を開始して以降、同国からは安全を求めて、多くの外国人が離れました。特に外国人出稼ぎ労働者の動きは顕著で、これまで1万人以上の農業労働(ほとんどがタイ国籍)がイスラエルから帰国したと報じられています。
労働者がいなくなれば、労働力が不足することは必然です。そのため、離れた農業労働者を補うため、インドやスリランカ、そしてアフリカ各国から出稼ぎ労働者をイスラエルに派遣する計画が進められています。
イスラエルへの派遣は国内と比較すると高い賃金が与えられますが、穴埋めのために危険な状況にある同国へ派遣されることは反発も招いています。
イスラエルの農業事情
イスラエルの産業といえばハイテク産業などが有名ですが、食料自給率が90%を超える農業大国としての一面があります。ジャガイモやトマト、かんきつ類やなつめやしの生産が盛んです。一方、牛肉やとうもろこし、小麦は輸入で賄っています。
日本との関係性に注目すると、日本からイスラエルの農林水産物輸出項目の第一位はなんと醤油で、年間で176万ドルほどの醤油がイスラエルに輸出されています。
イスラエルの農業従事者は約3万人程度で、労働人口約437万人と比較すると、1%にも達していません。
タイなどからの出稼ぎ農業労働者が帰国したため、イスラエル農務省は3~4万人の農業労働者を必要としています。言い換えれば、イスラエルの農業従事者と同等か、それ以上の労働力を確保しなければ十分な生産体制が整えられない状況です。
アフリカ側からの反応
ケニアでは1,500人の農業労働者をイスラエルに派遣すると労働省が発表しました。3年間の更新可能な契約で派遣され、月収1500ドルが保証されるとしています。
ケニアの賃金労働者の平均月給は約470ドルです。しかも、この数字は賃金労働者数は約300万人のものです。非正規を含めたインフォーマルセクターの労働者は約1600万人は、この数字よりかなり低いでしょう。
これらの国内賃金を考慮すれば、イスラエルへの派遣は破格ともいえる高賃金を得られる機会でもあります。
アルジャジーラの報道では、危険を顧みずにイスラエルへの派遣を希望するキクユ人農家について報道しています。
また、マラウィでは221人の若者をイスラエルの農場で働かせるという報道が出た後、大統領に批判が集まりました。
政府は雇用創出プロジェクトの一環として決定したことであると説明しており、情報省のモーゼス・クンクュ大臣は「機会はリスクよりも大きく、私たちはこの状況をコントロール可能である」と述べています。
批判にも関わらず、マラウィではさらに5000人をイスラエルへ派遣する計画が進められています。
BBCはイスラエル中部のゲフェンにある農場で、出稼ぎ労働者として派遣された221人の一人であるアンドリュー・チュンガ氏に取材しました。
チュンガ氏はお金のためにイスラエルに来て、「家に帰れば、億万長者だ」と笑って説明しました。
また、別の出稼ぎ労働者であるジャミソン・クパタモヨ氏は国内の厳しい求人状況や安い収入に言及しつつ、「影響を受けているのはイスラエルのごく一部で、国全体ではないのです」と、今のところ安全な環境にいることを述べました。
安全管理は本当に十分か
イスラエルのマイケル・ロテム駐ケニア大使によれば、同国はウガンダからも出稼ぎ農業労働者を採用する予定であり、タンザニアではすでに採用が始まっていると説明しています。
採用が拡大する一方、ハマスとの戦闘により、農業研修生としてイスラエルに滞在していたタンザニア人学生クレメンス・フェリックス・ムテンガ氏がこの攻撃で死亡し、もう一人のタンザニア人学生ジョシュア・ロイトゥ・モレル氏も行方不明となっているなど、安全面での不安は未だに残っています。
イスラエルでは戦闘地域が固定されている訳ではなく、ハマスが防衛線を突破したり、地下トンネルを通じて移動しています。そのため、イスラエル側の攻勢が多く報道されてはいますが、安全地域と思われている場所でも戦闘が起こる可能性があります。
即時停戦が求められている一方、イスラエル政府による農業労働者の採用活動を考慮すると、長期継続の構えを崩していません。
派遣された自国人が被害に遭った場合、政府への苛烈な批判は避けられないでしょう。
(イメージ画像はUnsplashより。©Taylor Brandon)
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